種子島は温暖なため至る所に猫がフラフラしていました。病院の職員玄関にもマスコット的な猫がいて、職員にかわいがられていたぐらいです。そういう状況のため、猫咬傷の症例は頻繁に外来に来ました。月の満ち欠けが関係するのか、症例数に波があった気がします。
猫咬傷への対応ですが、内部の洗浄、破傷風トキソイド筋注、広域ペニシリンの投与、ナイロンドレナージ施行、翌日検創というのが私のルーチンでした。一つずつうんちくを述べさせてもらいます。
まず内部の洗浄ですが、これはできればやるが、頑張りすぎなくてもいいのではと言うのが最近の私見です。18Gサーフロの外筒などを創内に入れて生食で洗浄することは可能ですが、猫咬傷の場合は盲端となっているため、圧をかけると周囲の組織に汚染された生食がばらまかれます。交通している出口があればこのやり方でもいいと考えますが。なので、内部の洗浄はやった方がいいのでしょうが、頑張りすぎなくても良いと思います。
図:猫咬傷模式図。左は盲端。右は交通している傷がある場合。
破傷風トキソイド筋注ですが、JATECの教科書を見ると過去10年以内にトキソイドを打っていない人は適応があるという書き方をしています。ただ患者さんの記憶をあまりあてにしていないので、私はルーチンで打っていました。種子島の場合ではかかる病院が限られているので、カルテに記録が残っていたらさすがに打ちませんでしたが、基本的には打つ方針でした。ガンマグロブリンについてはやっていませんでした。
起因菌ですが、Pasteurella multocidaが多いと言われていますが、猫の口腔内ですから何でもありです(生まれてから一度も歯磨きをしていない!)。β-ラクタマーゼ阻害薬配合の広域ペニシリンで決まりだと思います。ひどそうなら静注のABPC/SBT、内服ならAMPC/CVAが良いのではないでしょうか。よっぽどひどければ、PIPC/TAZとか。
ナイロンドレナージが一番大事だと思います。1-0ナイロンを折り曲げて入れると挿入時に痛くないのと入れやすくなるのでお勧めです。2-3本(計4-6本)入れておきましょう。挿入後の固定はステリストリップを用いていました。肌に一枚枕的にはると、はがれにくいのでお勧めです。詳しい貼り方はネットで画像検索するといくらでも出てくるので真似してみてください。
決してやってはいけないのはデュオアクティブやキズパワーパッドなどの閉鎖式創傷被覆材を用いることです。これは嫌気性菌をのさばらせるだけなのでDON'Tですね。素直にガーゼがいいと思います。また、軟膏の塗布はナイロンドレナージの毛細管現象を減弱させるのではないかと考えて私は行っていませんでしたが、ここは未解決です。
最後に注意点ですが、どうしても治らない傷を見たときは、異物が入っていないか確認するようにしましょう。猫咬傷でどうしても治らない人がいて、皮下に石?牙?が残っていたことがありました(二人)。普通猫咬傷でレントゲンは撮らないと思いますが、治りが悪ければ異物を疑ってください。