本文は外傷の専門家向けではなく、僻地の総合診療医向けの文章で、「頭を切ってしまった」程度の外傷について書いています。大きな頭部外傷は高次医療機関にすぐ送りましょう。なお、「顔面外傷」の推薦図書もご参照ください。
まず、頭部はよく出血します。多く出血しても、あまり驚かなくても大丈夫です。ただ、出血がひどい場合は、モニターとルートの確保をしたほうが安心です。基本的には、出血がひどくても電気メスで焼灼するのは避けたほうが良いです。ハゲの原因になることがあるからです。どうしても出血が止まらない場合は、吸収糸(バイクリルなど)でZ縫合して結紮する方法もあります。結紮部に異物感が残ることもありますが、効果的です。
頭部のケアで髪の毛を剃る必要はありません。一昔前は、温水では止血しないと言われて冷水で洗っていましたが、これも意味がないばかりか患者さんが冷えてしまいます。温かいシャワーで洗ってあげましょう。汚れがひどい場合は、シャンプーとドライヤーを使っても良いです。
髪のある部分はスキンステープラーで固定できますが、髪のない部分は5-0ナイロンなどで縫合したほうが良いでしょう。例えば前額部などです。その際、ラフに縫うと傷跡が目立つので、必要に応じてPDSで真皮縫合をしても良いかもしれません。頭皮が大きく剥がれるような外傷(De-scalping injury)でも、真皮縫合はせずにステープラーで固定して大丈夫です(ある脳外科医のアドバイスです)。しっかり圧迫しておけば、数日後にはくっついてきます。圧迫にはストッキネットや、脳外科の術後のようなターバンを使っても良いでしょう。「ターバン」が分からない場合は、お近くの脳外科の先生に聞いてみてください。
頭部の傷は感染しにくい部位ですが、洗浄をしっかりすることが大切です。もし、膿が出てきた場合は、異物が残っている可能性があります。放射線技師さんにお願いすると、CT画像で異物に色を付けてくれることもあります。私の経験では、MEPMを投与しても膿が止まらない頭部挫創で砂利が残っていたことがありました。砂利を除去したところ、数日で改善しました。ガラスは残っていても感染しにくい印象があります。
頭部に異物が残っている場合、その除去は大変ですが必要です。私が経験したのは砂利とガラスです。砂利は透視では見えにくいですが、黒い色なので直視下で比較的簡単に摘出できます。ガラスは透視で見えるものの、透明なので血まみれの中では摘出が難しいことがあります。ただし、ガラスが残っていると患者さんは寝るときに痛みを感じることがあるので、しっかり時間をかけて除去することが大切です。外来の合間ではなく、必ず時間を取って行いましょう。私の患者さんは、摘出中にリラックスしてイビキをかいていました。
子供の頭部挫創では、髪の毛を反対方向に引っ張ってノベクタンスプレーで固定する方法が以前はありましたが、スキンステープラーで固定するのが良いと思います。前額部ではステリストリップで固定することもあります。子供を押さえつけるのが私は好きではないので、一瞬で終わる方法を選びたいです。他にもダーマボンドで固定する方法もありますが、出血があるとくっつきにくいのと、創内にダーマボンドが入るのは避けたいので、あまり使っていません。
「頭部打撲の注意書き」を渡し忘れないようにしましょう。参考までに当院で渡しているものをリンクしておきます(こちら)。CTを撮る基準については成書を確認してください。個人的には、安全のためにやや多めに撮影することが多いです。患者さんも心配していることが多いので。ただし、前額部は骨が二重構造なので、他の部分よりも安心できる場合が多いです。こうした知識を患者さんに説明しながら、CTを撮るのが良いでしょう。
「陽動作戦」という言葉があります。これは「敵の目をごまかすために、真の計画を隠してまったく別の大げさな行動をとる軍事的な戦略」という意味だそうです。頭部の出血に気を取られず、バイタルサインや既往歴、他の部位の損傷にも気を配りましょう。糖尿病(DM)や抗凝固薬の内服がないかも確認してください。冷静さを保つためにも、まず写真を撮るのが良いです。カメラを介すると冷静に観察できるようになります。スマホは患者さんの心情的にあまり良くないので、きちんとしたカメラで撮影しましょう。一眼レフカメラはメルカリで1万円くらいから購入できます。