1 膝関節注射

種子島で驚いたのが、世の中には膝が痛くて困っている人がこんなに沢山いるのかと言うことです。また、全員が手術を望んでいるわけでもないということも驚きました。麻酔科出身なので、膝が痛かったらみんな人工関節にするのかと思っていたのですが、世の中の人はみんなだましだまし生活しているんだなと言うことが分かりました。北海道の某離島の先生の話を聞いたことがあるのですが、そこでもやはり整形疾患のニーズがかなり高いようです。

内服薬と手術の間の治療法として関節注射があります。

古典的には膝蓋骨の下側(背側)に針を入れると記載されています。ただ、針先がどこまで行っているのか不安だったので、私はエコーガイド下にやっていました。エコーで膝蓋上部を短軸方向に当てて滑液包を描出してました。解剖の本を見ると分かるように膝上の滑液包はかなり狭いです。おそらく1~2mmほど。関節液が溜まっていない状態で、ブラインドでここに入れることはまず不可能です。まず脂肪内注入になるかと。エコーで見ながら注入すると滑液包が広がっていくのが分かり面白いですよ。

膝関節穿刺の図
左図 古典的な膝関節穿刺、右図 エコーガイド下の膝関節穿刺

消毒ですが、アルコール綿で拭いてからイソジン消毒を行っていました。イソジンだけだと消毒効果を発揮するのに時間がかかりますから、あらかじめアル綿で拭くのが大事です。

針は25G38mmを愛用していました。27Gでもいいのですが、ヒアルロン酸は粘度が高いため注入に時間がかかることや、細かい運針が難しく感じたこと、また一回刺すと針の切れ味が低下することからあまり使いませんでした。穿刺・排液をする時は18Gでやりますが、局麻してから穿刺することをお勧めします。18Gを無麻酔で刺すとかなり痛いです。

私はヒアルロン酸(アルツ)にアナペインを混注して注入していました。局麻を入れるので、適切な部位に入っていたらすぐに効果が出ます。水溶性ステロイド(デカドロンやリンデロン?)を入れてもいいかもしれませんが、せいぜい年二回くらいにしておいた方がいいようです。私は関節鏡はできないので、感染のリスクを考えてステロイドの混注はあまりやりませんでした。地域によってはカルボカイン(メピバカイン)を入れているところもありますが、アナペインの方が安全で持続時間も長いです。

アルツ以外のヒアルロン酸もありますよね。ジョイクルも一時期使っていました。これはジクロフェナクが入っているらしく、2週間効果が続くというのがウリです。ただ、アレルギーで亡くなった人がいるというのと、粘度が非常に高くて入れにくいということもあり、最近は使っていません。

なお、膝関節注射は手術希望の人ではやらない方がいいです。術者によっては術前半年間は刺さないという人もいますので。

エコーで見て関節液が溜まっている人は抜いてからヒアルロン酸を入れましょう。薄まってしまうからです。また、関節液が溜まっている人は積極的に抜きましょう。化膿性関節炎の人がたまにいるからです。これは時間との勝負の疾患なので見逃がしたくないです。見つけたらすぐに整形外科に送りましょう。ちなみに本物の化膿性関節炎だと関節液がコーヒー牛乳の色なので一目瞭然です。ただ、そうでなかったとしても何による関節液なのか分からないため、私は関節液をCBC(WBCと好中球)、結晶(尿酸とピロリン酸)、培養の3セット提出していました。化膿性関節炎だとWBC>50000と言われますが(「ごまんと(細菌が)いる」)、WBCが50000を超える偽痛風を2例見たことがあって、判断が難しいところです。本当は鏡検したらいいのですが、顕微鏡が苦手で。。。

話を関節注射に戻します。覚えておいた方がいいのは、関節注射は膝に対する注射療法の最新治療ではないということです。TAOA:東京先進整形外科アカデミーの講義を聞くと分かりますが、OAの痛みの一部は内側半月板と内側側副靭帯の間から生じているようです。この部位にハイドロリリース的に注射することをMCL包注射と言うようですが、これは確かによく効きます。他に膝裏にもハイドロリリース的に注射する部位もあるようです。これでよくなった人も一人いました。詳しくはTAOAを受講してみる、もしくはコニカミノルタでよく講義をされていますから登録して視聴するといいですよ。

他にも自費診療になりますが、再生治療もありますよね。手術が難しい離島だからこそ再生医療がいいのではないかと考えたこともあったのですが、施設基準とかが厳しいらしく断念しました。難しいものですね。

興味深いのは膝神経ブロックと言う方法です。膝に行く神経を選択的にアブレーションして焼いてしまうというものです。私がいた施設ではアブレーションの機械がなかったためできませんでしたが、単発の局麻でも除痛効果はありました。長続きはしませんでしたが。何か所も刺さなくちゃいけないのが難点です。詳しくはYouTubeで"Genicular Nerve Blocks"で検索してみてください。

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