以下の文章は離島勤務の総合診療医が、僻地研修を行う研修医向けに記載しています。専門の先生から見るとおかしいところが多々あるかと思いますが、僻地の話と言うことでご容赦ください。また大きな交通外傷や腱まで切れているような外傷などは総合診療医は診れないと思います。早急に専門医へ送りましょう。
整形疾患では解剖の理解がとにかく大事です。解剖アトラスを見ながら患者さんの痛い所を触ると原因が分かりやすいです(私はネッターとプロメテウスを使っています)。以下ではよくある疾患を部位別に記載しています。
交通事故後、または転倒して手が痺れたという人です。いわゆるむちうちですね。これを「脊髄損傷」という病名にすると「脊損」と言う言葉が独り歩きし、あとあと大事(おおごと)になる可能性があります。 ちなみに日本人はむちうちを訴える人がすごく多いという文章を読んだことがあります。ヨーロッパではほとんどないとか。文化的・人種的なものがあるのかもしれません。
画像は必ず撮っておきましょう。首の画像では「まつしまななこ(まずCは7こ)」からやっていきましょう。詳しくはJATECの教科書をご参照ください。
首筋の痛み+デルマトームに添った症状が上肢にあれば疑わしいです。セレコキシブ、タリージェ、ひどそうならトラムセットを処方します。あまりにひどければ腕神経叢ブロック斜角筋間法も有効です。障害部位はもっと近位の気もしますが、なぜか効くんですよね。
首筋(くびすじ)の1ポイントが痛ければ筋肉の痛みが多いです。こういう人にはトリガーポイント注射が著効することが多く、ネオビタカイン注を使用します。エコーを見ながらハイドロリリース的に行ったり、筋肉内に注入したりします。注射が嫌ならミオナール処方も良いかもしれません。
初発の左肩痛なら心筋梗塞の除外はしておきましょう。また、肩のどこが痛いのかは非常に大事です。首筋、肩そのもの、または上腕近位、背中など、「肩」と一言に言っても人によってかなりばらつきがあります。
~~キーワードでの鑑別~~
自動・多動共に痛い:肩関節周囲炎(別名 癒着性滑液包炎、五十肩)
自動は痛いが他動は大丈夫:腱板断裂
一晩で急に痛くなった:石灰沈着性腱板炎
明らかな熱感がある:偽痛風か化膿性関節炎
と私は整理しています。
三角筋とローテーターカフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の癒着が原因。癒着性滑液包炎と呼ばれることもあります。なので、三角筋と棘上筋の間にアルツと局麻(アナペインなど)を混ぜたものを注射し、癒着剥離をします(SAB注射)。あまりにひどい人ではエコーのPOWERモードで炎症部位にFLOWが乗ることがありますので、一応見ておきましょう。注射部位がドンピシャなときでは、注射後2~3分で痛みが消失し、可動域も改善します。他に肩関節注射も有効とされています(GH注射)。背側から関節腔に注射します。SAB注射よりも難易度が高く、あまり好きではありませんでした。リハビリと定期内服(セレコキシブなど)もしておきましょう。
ローテーターカフの断裂が原因です。原因は加齢性変化と外傷が多い。ぶつけてから肩が痛くなったと言ったら、まずこれと考えましょう。エコーで見ると断裂部位がはっきりわかります。エコーはMRIよりも空間分解能が高く、小さい断裂でも分かると言われています。肩関節周囲炎と同じくアルツアナペイン注をしていました。リハビリもしておきましょう。ただ、肩関節周囲炎よりも治癒に長期間かかる印象だし、注射も効きにくい印象です。若年だったら手術適応かもしれないので早めに整形外科医に診てもらった方が良いかもしれません。
頻度は低いです。女性に多いとか。レントゲンで石灰が写るのがポイント。石灰を生食でポンピング除去すると疼痛が改善するようです。
高齢者の尿路感染症などに併発することが多い。セレコキシブが著効。デキサートの局注も有効とされるが、化膿性関節炎と鑑別が難しいので、ステロイドは入れない方がベター。エコーで見て液体あれば抜いて検査出しておくのをお勧めします。私は「CBC・血液像・結晶(尿酸とピロリン酸)・培養」の4つを出しています。正常関節液の色やWBCの数などは正書を参照ください。
シンプルに筋肉か神経か骨か考えるのが大事だが、肩や膝よりもブラックボックスな印象。私はやや苦手です。また、緊急手術の絶対適応は「膀胱直腸障害、下肢麻痺」ですが、相対適応が結構幅広いです。もちろんRed flagsの除外を行いましょう。
エコーで見ると筋肉が固まっていることが多い。多くは運動不足で、筋肉が拘縮してしまっています。運動の励行はもちろんです。その他としてはトリガーポイント注射として、ネオビタカイン注やアナペインを固まっている場所にばらまいてきます。本当にそこが原因だと結構よく効きまして、腰が痛くて曲げられなかった人が、注射後数分で前屈フルに出来るようになることもあります。注意点としては、場所によっては肺が直下にあったりするので、深く差しすぎると気胸を作る可能性がありますので、エコーで見ながらやったほうがベターです。
坐骨神経痛です。解剖のアトラスでデルマトームの図を患者さんと見ながら場所を確認しています。L4からSくらいなら仙骨ブロックが効くことがあります。これは麻酔の濃度が結構大事です。1%キシロカインでやるとブロック後の転倒リスク高いため、私は0.5%キシロカイン5ml(+デキサート0.5ml)でやっています。デキサートが一番大事で、局麻は要らないという意見もあります。針を結構寝かさないと入らない人も多く、穴開きの覆布を使う方が清潔に出来ます。
上殿神経の絞扼が原因。結構頻度が多く、印象では腰痛10人中2人くらいでしょうか。わたしはアナペインでトリガーポイント注射をし、タリージェ内服で対応していました。結構深いのでカテラン針が必要になることもあります。エコーガイド下でやるのがベターです。
ちなみに腰痛に対してCTを撮る時は、脊椎ではなく、腹部でとる方がベターと考えます。内臓による痛みの可能性あるので、背骨以外も見たほうがいいです。当院では気を利かせてサジコロも撮ってくれてありがたいです。
OAっぽい初診の人はレントゲン二方向、KL分類で評価しておきましょう。外傷後なら三方向で膝蓋骨もチェックしておきましょう。多くの膝痛は内転筋の筋力低下です。筋力トレーニングの必要性は言うまでもありません。
場所が結構大事です。内側ならOAや鵞足炎、内側半月板損傷などでしょうか。外側なら腸脛靱帯炎を考えています。外傷ありなら膝蓋骨もチェックしましょう。膝蓋骨脱臼や骨折は典型的なレントゲン写真をGoogle検索で見ておきましょう。これは知っていないと診断できません。
エコーで見て水が溜まっている人がいます。溜まっていたら肩同様抜いて検査しておく方がベターです。化膿性関節炎を見逃したくないからです。ただ、無麻酔で膝の穿刺をすると結構痛いようです。私は1%キシロカインで局麻してから18Gで穿刺しています。
淡黄色の関節液ならOAによる非炎症性関節液の可能性が高いです。一方、(コーヒー)牛乳色の関節液なら化膿性関節炎を考えます。これを見たら大至急整形外科に送りましょう。手術になるかもしれません。血性関節液なら骨折か靭帯損傷があるはず。その場合、私はレントゲンかCTを撮ります。骨折が見つかることが多いですが、骨折がなければ靭帯損傷と考えます。参考までに反応性と化膿性の関節液の写真を出しておきます。偽痛風は化膿性に似ていてすごく悩ましいです。なお、膝関節穿刺については「整形内科」の項を参照ください。
OAによる非炎症性関節液
化膿性関節炎の関節液
エコーで内側半月板も見てきましょう(これもネットでチェック)。POWERモードでFLOWが多いと炎症が激しそうと判断しています。ここに関節液が貯留している人も多いです。私はこの辺りが痛い人には、内側半月板と内側側副靱帯の間にアルツアナペインを入れていました(MCL包注射)。
腎機能が大丈夫ならセレコキシブを処方しておきましょう。結構痛がっているなら、夜だけトラムセット内服とかもいいかもしれません(朝夕とかで出すと嘔気で断念することが多い)。
痛い場所をまず触診することが大事です。腫脹・発赤・熱感があるかは大事な情報です。これがあると化膿性の除外が必要です。
足関節を内反して外側を損傷することが多い。足関節では前距腓靭帯という超メジャーな損傷しやすい靭帯がありますので、これは知っておいた方がいいでしょう。バレーボールの着地などで損傷することが多く、こういうのはヒストリーを聞いただけで分かります。ちなみに、レントゲン二方向は必須です。腓骨遠位端骨折の除外が必要だからです。
「痛風ですか?」と言って来る人は結構多いです。もともと尿酸値が高く、痛風発作の既往がある人でしたら痛風の診断で良いと思います。ただそうでない場合、誘因は不明の事も多いです。尿酸値と痛風発作の間に相関はないというのを読んだこともあります。ただ治療は変わりなく、セレコキシブ処方でOKです。痛風発作が明らかならばコルヒチンを処方してもいいでしょう。その場合、下痢するかもしれないと一言添えておくと親切かもしれません。
穿刺はアル綿でゴシゴシして乾いてから、イソジンスティックで1~2回消毒をしています。アルコール消毒が結構大事だと思っています。
四肢って、極論を言えば筋肉・骨・神経・血管・腱しかないので、そのいずれかが原因と考えるとシンプルです。繰り返しになりますが解剖が本当に大事。解剖の本を患者さんと見ながら診察するのがポイントです。